ワイルドウッド テーブル開発ストーリー
2018/03/06 00:00
WILDWOOD STORY
- MASTERWALはこのテーブルから始まった -
1999年に誕生した、AKASEの代表的プロダクト
「ワイルドウッド」
シリーズ。 オイル仕上げの無垢の天板に、木の質感を最大限に生かしたシンプルモダンなデザインのダイニングテーブルは、当時婚礼タンスの 製造が中心だったアカセ木工のターニングポイントとなり、その製品理念は今のマスターウォールブランドの礎にもなっています。 そのワイルドウッドはどのようにして生まれたのか。誕生のきっかけや開発秘話をインタビューしました。
ライター:溝口 仁美(ワード)
婚礼タンスからインテリア家具への転換期
〈左:取締役副社長(当時開発担当) 後藤 和司 / 右:常務取締役(当時営業担当) 山本 高康〉
-まずは、ワイルドウッドの開発に至ったきっかけを教えてください。
山本 :アカセ木工は元々婚礼タンスメーカーとして創業した会社で、17年前の当時も婚礼タンスの製造と販売が主でした。 私と後藤は、開発部で営業と企画開発をしていたんです。しかし、住宅様式やライフスタイルの変化により、婚礼タンスの売上は下降線をたどっていました。タンスの需要が減っている空気はひしひしと感じていて、社内でも「婚礼タンスをずっとつくっていく」という意見と「新しいものを考えよう」という意見の二つあり、僕は後者の考えだったんです。「まだワイルドウッドが生まれる前、今から20年前ぐらいからそういう話しは出ていました。
後藤 :朝礼で「婚礼タンスを買う?」と社員に聞いたら、あまり手があがらなくて。価値観の変化により婚礼タンスのしきたりが消えはじめていたんでしょうね。自分達必要と感じていないものが、未来永劫必要なんだろうか?と、おぼろげに不安を感じていた時期でした。私自身も、自分達が今後使いたいものを作ったほうが良いと思っていました。
〈アカセ木工の婚礼箪笥〉
-婚礼タンスからの転換期がひとつのきっかけなんですね。
山本 :外部ブランドの取り扱いは一部ありましたが、オリジナルの椅子やテーブル、ベッドなどはつくっていませんでした。 一般的な感覚では「家具を作るのはどれも同じだろう」と思うかもしれませんが、タンスは非常に専門性が高い家具です。タンス以外の家具を作ることは、いわば異業種に携わるくらいのハードルの高さがある。陸上競技に例えると、マラソン選手が短距離走や砲丸投げをやるほどの違いでしょうか。現場でもかなり戸惑いがあったのは確かです。ですが、現状のままではいけないな、と。また、アカセ木工がインテリアショップの運営に携わったのもこの頃。将来を見据えたタンスに変わるモノづくりやアイデアを日々模索してましたね。
-ワイルドウッドにたどり着いたのは?
山本 :とある家具店に営業に行った際、展示していた輸入品のテーブルに目が止まりました。上手くミックスしたデザイン。ふと「こういった造りならウチでも製造できるかな?」と思いついたんです。
後藤 :その日、山本が営業から帰ってきてすぐ「これ、できるんじゃない?」って話しになったのを覚えてます。
山本 :早速、デザイナーを交えて話をはじめました。その時にデザイナーさんがイメージとして持参したのが、海外のインテリア雑誌の1ページ。そこに載っているテーブルが、非常にスタイリッシュなデザインで惹かれましたね。
後藤 :天板のフォルムをソリッドに削ぎ落とし、無垢の素材感を際立たせたデザイン。当時は真っ白に塗りつぶしたようなテイストの強いイタリアンモダンや、木の形をそのまま残した民芸風の無垢テーブルが主流でしたが、こういったナチュラルなモダンさが心の琴線にふれましたね。木を使うので婚礼タンスの技術も生かせますし、脚のパーツは外注で対応できそうだと。
〈開発資料から〉
-いろいろな試行錯誤や動きの中で、ヒントが掴めたんですね。
後藤 :これならイケるんじゃないか?って。この時、新しい市場が山本の中で見えてきたんじゃないかな?
山本 :そうですね。まずは開発チームの私達だけで試作に取りかかりました。直線的なウォールナットの天板にブラック塗装のアイアンフレーム。ワイルドウッドのモデルが見えてきました。
自然の風合いを生かしたナチュラルモダンなテーブルが誕生
-ウォールナットの木材やオイル仕上げに決めた理由は?
山本 :単純に僕が好きで。この木肌の質感と重厚な色みがカッコイイですよね。タンスは需要に合わせて多様な木材で展開しますが、「これをやるならウォールナットで行こう!」と決めてました。 開発当時は現場の職人が対応していなかったので、「自分達で作れる」っていうのがコンセプト。オイル仕上げにしているのは、私達ではウレタン塗装ができないからです。ポリシーというよりは仕方なくってところが大きい(笑)
後藤 :DIYの精神ですね(笑)。開発チームの私たち二人で、ほぼ勝手に進めてましたから。ウォールナットで作った試作の記録写真は唯一これだけですね。(下図)記念すべきオリジナルのファーストプロダクトです。
-「ワイルドウッド」という名前の由来は?
後藤 :デザイナーさんと話しをしていて出てきました。
山本 :木材は、悪い部分を6割くらい捨てますが、僕らは最初、悪い部分も入れて作りました。貴重なウォールナットの廃棄部分を減らしてコストを抑えるのが目的。木目のナチュラルな質感が残っています。だから名前もそういった点をポジティブにとらえて「ワイルドウッド」に。
後藤 :WILDWOODには「Go for nature with primitive modern.」というテーマがあります。プリミティブモダン(原始的な、根源的なモダンさ)は自然のディテールを生かしたモダン。Getback nature(自然回帰)ではなく、Go for nature(振り返らない)という言葉にブランドコンセプトをこめました。これは、今のマスターウォールのモノづくりの信念にも繋がっています。
-ワイルドウッドの魅力について教えてください。
山本 :無垢の家具には自然素材の持つ心地よさがあり、それは理屈で説明できない感覚です。それが性別や世代を超えて受け入れてもらえました。また、天板の木幅がバラバラなのも当時としては斬新。どのメーカーも工業製品として均等にそろえるのが常識でしたから。木材を無駄なく大事にして作ると、おのずとそういうディテールになり、良い点も悪い点も生かした形で収まりました。もしも、開発時に技術や材料が豊富にあったらワイルドウッドは生まれてないと思います。
後藤 :当時は珍しかった脚の位置を変えられるところも特徴です。シンプルな中に機能性や工夫を盛り込み、テーブル1本でどれだけ語れるか? を大切にしてました。
〈スチールレッグの設計資料〉
-今後の展開はありますか?
山本 :今までと違う素材の使い方や木材の産地、厚みのバリエーションにこだわってみたいです。
後藤 :購入いただく中でお客さんのニーズもいろいろ出てきますので、その声を生かしたいです。社長も「お客さんの声はよく聞け」といいますから(笑)。
-家具づくりで大切にしていることはありますか?
山本 :買った時が満足度のマックスじゃなくて、使い続けるうちにどんどん愛着が大きくなる家具を作ることかな。メンテナンスや磨き直しを加えながら長く使うからこそ、時代を超えたシンプルなデザインに仕上げることも大切な要素です。
後藤 :携わる人間が「こういうの自分も好きだな、カッコイイな」という想いを持てるクリエイションが大切。言葉に置き換えられない感覚的な良さは「自分も欲しいな」と納得できないと、周りにも響かない。今までの家具を超える可能性を探り、違う価値を生み出すためにも大切な考え方だと思います。